投稿日:2022/11/08
更新日:2024/09/30
でんきの豆知識
家庭の太陽光発電で余剰電力を売電している場合、FIT制度の終了後に買取価格が大幅に下落する問題で、頭を悩ませている方は少なくありません。
今後の買取先を検討する際に、電力会社のホームページでよく目にするキーワードの一つが、
「非化石証書」です。
この記事では、非化石証書とはいったい何か、どのような仕組みで温室効果ガス削減に関わっているのか、また非化石証書にはどのような種類があるのかなど、全体像を解説します。
卒FITの買取先を検討している方はぜひ参考にしてください。
※記事中に記載されている数値や金額は、いずれも2024年9月時点の情報です。
目次
非化石証書の全体像を具体的に把握するために、概要や導入の背景、導入の目的、スタート時期などを解説します。
非化石証書は、電気小売業者が提供する電力のうち化石燃料で発電された電力を切り離し、非化石エネルギー源を用いて発電された電力そのものの環境価値を示す証書です。
エネルギー供給構造高度化法(以下「高度化法」)により、小売電気事業者には非化石電源比率を2030年度までに44%以上にする義務が課せられました。
小売電気事業者は非化石証明を購入することで、自社が化石燃料を使用して発電する際に排出する二酸化炭素を含む温室効果ガスの削減を実行している事実を証明できます。
非化石証書が導入された背景には、世界的に深刻化している地球温暖化や環境破壊の問題があります。
原因の一つとされている温室効果ガスを減らすために、排出量削減のノルマが世界各国に課せられています。
排出量削減の有効な手段として認知されているのが、再生可能エネルギーの活用です。
しかし、日本では再生可能エネルギーによる発電コストが割高であるため、普及が伸び悩んでいます。
高度化法は、そうした再生可能エネルギーを用いた発電と、再生可能エネルギー由来の電力利用の促進を目的に制定されました。
非化石証書の制度は、企業のクリーンエネルギー利用の推進を目的に2018年5月から導入され、JPEXと呼ばれる日本卸電力取引所にある非化石価値取引市場において、小売電気事業者の間で売買がスタートしました。
2021年11月からは需要家や仲介業者などの小売電気事業者以外の入札参加も可能になっています。
なお、一般企業は非化石証書の購入に参入できないため、非化石証書を購入している小売電機業者から電気を購入して、再生可能エネルギー由来の電力利用への取り組みを証明しなければなりません。
詳しい仕組みは後ほど解説します。
非化石証書には、発電にどの再生可能エネルギーを電源として使用するかで、3つの種類が定められています。
それぞれの概要や特徴を詳しく解説していくため、確認してみてください。
FIT制度(固定価格買取制度)では、再生可能エネルギーで発電された電力を、一定期間にわたり固定金額で買い取ることを国が保証しています。
このFIT制度で指定されている再生可能エネルギー、つまりFIT電源に由来する電力の証書が「FIT非化石証書(再エネ指定)」です。
温室効果ガスの排出量が少ないため、環境負荷が少ないという環境価値を示すもので、FIT電源には太陽光や風力、地熱、小水力、バイオマスなどが含まれます。
FIT制度で指定されていない再生可能エネルギーに由来する電力の証書を指します。2020年から新たに取引対象として加えられました。
FIT制度に指定されていない電力、またはFITの指定期間が終了した電力(卒FIT電気)が含まれます。
FIT非化石証書(再エネ指定)と同様、温室効果ガスの排出が少なく、環境負荷が少ないという環境価値を示すものです。
非FIT非化石電源には、大型水力などが含まれます。
化石燃料由来ではないものの、「再生エネルギー表示価値」を持たない発電方法による電力であることを示す証書です。主に原子力発電が該当します。
確かに原子力発電は化石燃料ではないため温室効果ガスの排出は抑えられるものの、発電過程で自然界に有害な使用済み核燃料が排出されるのは避けられません。
日本国内の使用済み核燃料は貯まり続ける一方で、すでに保管場所が逼迫している状況です。そのため、非FIT非化石電源は、非化石燃料とはまた異なる意味での環境負荷が大きいエネルギー源とみなされます。
前述のとおり、小売電気事業者には「2030年までに非化石電源比率を44%にする」と、高度化法で定められた義務が課せられています。
ところが、再生可能エネルギーを使用した発電の仕組みがない小売電気業者にとっては履行困難です。
そこで非化石証書の購入を通じて、高度化の義務を履行したものとみなされます。
その際は、3種類ある非化石証書のうち、環境不可が少ない価値を証明できる「再エネ指定」の証書を選ぶ必要があります。
小売電気事業者が購入した非化石証書は、購入した分だけ「販売する電気の発電過程で出された温室効果ガスの排出量の削減に貢献した」成果の証明になります。
温室効果ガスの排出量を削減できるほど、より環境に配慮した電気料金プランを一般家庭や企業に提供できるようになるのです。
非化石証書の購入は、直接購入できる小売電気事業者や仲介事業者、需要家などだけでなく、間接的に取引をする一般企業にとってもさまざまなメリットがあります。ここからは、非化石証書を購入する6つの主なメリットをチェックしていきましょう。
現段階において、化石燃料による発電をゼロにすることは現実的ではありません。しかし非化石証書を購入すると、その分CO2の排出量を減らせます。
非化石証書の購入は、需要家にとって環境に配慮した選択肢となります。
2021年の非化石証書取引制度の見直しに加え(※)、価格が改訂されたこともあり、需要家にとっての非化石証書は身近な存在になっています。
参考:環境省.「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)」.“⑩非化石証書”.
https://www.env.go.jp/content/000194869.pdf ,(2024-01).
環境負担に配慮できる非化石証書の購入は、一般企業において温暖化対策推進法への対策になります。温暖化対策推進法とは、CO2をはじめとする温室効果ガスを一定量排出する企業において、温室効果ガスの排出量算定および国への排出量報告を義務付ける法律(※)です。
非化石証書を購入し活用すれば、先述の通りCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を減らせるため、国に報告する温室効果ガスの排出量を抑えられるというメリットがあります。
(※)参考:環境省.「地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画」.
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/domestic.html ,(2024-09-06).
一般企業が非化石証書を購入すると、脱炭素に前向きな企業としての称号を手に入れられるでしょう。
脱炭素とは化石燃料を燃やしたときのCO2排出量ゼロを目指す取り組みを指し、これに取り組む姿勢をアピールできることは、企業ブランディングの強化につながります。ま消費者に対するブランドイメージの向上や、求人・採用時にもアピール材料として有利に働くでしょう。
また脱炭素とともに注目されているのが、カーボンニュートラルです。脱炭素がCO2排出量ゼロを目指す取り組みなのに対して、カーボンニュートラルは、CO2を含む温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡にする取り組みを指します。CO2の吸収量を増やすだけではカーボンニュートラルの実現は難しく、脱炭素によるCO2排出量削減の取り組みも必要です。実際、日本政府が打ち出す『2050年カーボンニュートラル宣言』においても脱炭素の重要性が説かれています(※)。
カーボンニュートラルに取り組み、環境に配慮した経営や商品・サービス開発を行うことによって、消費者や投資家からの評価向上が期待できます。その結果、自社のブランディングにつながり、競合と差別化が図れるでしょう。
環境省 脱炭素ポータル.「カーボンニュートラルとは」.
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/ ,(参照2024-08-22).
ESG投資家からの信頼が厚くなることも、一般企業が非化石証書を購入するメリットです。ESGとは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の頭文字を取った略語で、これら3つに配慮した活動や経営のことを指します。持続可能な社会の実現に対する企業の取り組みを評価し、投資を行うのがESG投資家です。
ESG投資には複数の種類があって、環境問題にいかに力を入れているかを評価して決まるものが多くあります。一般企業が非化石証書を購入すると、環境負担の削減に注力している証明となり、投資家からの信頼を獲得する決め手となるでしょう。
需要家が電力契約を再生可能エネルギーに変更せずとも、環境価値を入手できることも忘れてはいけないメリットの1つです。
例えば事業所が自社ビルではなく他社ビルの一角にあった場合、本来であれば、再生可能エネルギーに切り替えたくても独断での変更はできません。しかし非化石証書を直接購入すれば、他社ビルのオーナーが再生可能エネルギーに切り替えずとも、実質的に再生可能エネルギー100%の電気とみなされます。
大きな労力を必要とせず環境価値を手に入れられ、環境配慮のアピールにもなる非化石証書ですが、一般企業や需要家が非化石証書を購入する際には注意点もあります。
先述の通り非化石証書には3種類あり、環境価値を証明できるのは「再エネ指定」の証書のみです。再エネ指定なしの原子力発電なども非化石証書の1つに含まれていますが、それらを購入しても環境配慮にはつながらないことを理解しておきましょう。そもそも非化石証書は、すでに削減されたCO2を「環境価値」として購入できる仕組みのため、非化石証書の購入と併せて自社で行える取り組みを探す姿勢も大切です。
また非化石証書の購入には、当然のことながら費用が必要です。非化石証書の価格は最終的にオークションで決定されますが、種類ごとに最低価格が定められています。FIT非化石証書と非FIT非化石証書では最低価格が異なるため、予算に合った種類の選択が求められます。非化石証書の価格は入札の結果によって変動する上、購入に伴う手数料が追加されるケースもあるため注意しなければなりません。
さらには、購入後の非化石証書には使用期限が設けられている点も覚えておきましょう。非化石証書を購入できる8月・11月・2月・5月のいずれの入札・購入分であっても、購入後の6月が期限です。例えば8月に非化石証書を購入すると、期限を迎えるまでに約10カ月ありますが、5月に購入した非化石証書は約1カ月という短い期限となります。
FIT制度で購入された電気は、非化石電源で発電された電気ではあるものの、非化石の価値はありません。
FITの高い買取価格の原資となっているのは、電気を利用する消費者が負担する再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)です。
消費者が毎月支払う電気料金とともに負担している再エネ賦課金が、FIT制度を支えています。
そのためFIT電気の非化石価値はあくまで消費者に帰するものとみなされ、FIT制度の下で買い取った電力に関しては、小売電気事業者が非化石価値を主張できません。
FIT電気には、あくまで電力そのものの価値しかないことを意味します。
非化石証書を利用した電気料金プランの例を紹介します。
水力発電所で発電された電気に、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)を100%使用した再生可能エネルギー電気を供給するプランです。
▼アクアエナジー100|料金プラン紹介|東京電力エナジーパートナー株式会社
水力・地熱などの再生可能エネルギー電源に由来する電気に、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)を使用して、再エネ価値およびCO2フリー価値を付加したプランです。
FIT電気に非化石証書を組み合わせることで実質的に再生可能エネルギーを提供し、CO2排出係数をゼロにするプランです。
非化石証書を京葉ガスが購入することによって、 CO2排出が実質ゼロとなるプランです。
関西電力で主契約をすることによって、再生可能エネルギー由来の非化石証書の持つ環境価値を付加された電気が得られる電気料金メニューです。
▼再エネECOプラン(低圧)|電気|関西電力 個人のお客さま
メリット・注意点ともに複数ある非化石証書ですが、先述の通り、現段階での一般企業の直接購入は許されていません。
そこでここからは、一般企業が非化石証書を調達・活用する方法を解説します。
一般企業の非化石証書の取り入れ方として代表的なのが、非化石証書を購入した電力会社と契約する方法です。
非化石証書を購入した電力会社では、多くの場合、非化石証書の購入によって得られる環境価値を組み込んだメニューを展開しています。そのメニューを選択することで、一般企業は再生可能エネルギーを活用した電気の使用が可能です。
再生可能エネルギーによる電気と環境価値がセットになっていれば、環境価値を別途購入する手間を省けます。ただし非化石証書を購入した電力会社であっても、すべてのメニューが環境価値とセットになっているとは限らないため、見極めが肝心です。
非化石証書が2018年に導入された際、購入者は電力会社と小売事業者のみに限定され、一般企業による購入は認められていませんでした。しかし、2021年11月の制度変更によって、一般企業でも需要家(電力ユーザー)としてなら、FIT非化石証書に限り、購入が可能になりました。電力ユーザーによる購入なら、FIT非化石証書の調達にかかる手数料は発生しません。
電力ユーザーとして非化石証書を購入するためには、JEPXの会員登録が必要です。JPEXとは、電気を取引する市場を指します。JEPXの会員になるためには入会費や年会費を払わなければなりません。加えて、取引はオークション形式のため、購入の際に入札にまつわる手続きの手間がかかることを覚悟しておきましょう。さらに、需要と供給のバランスにより価格が変動し、需要が逼迫すると価格が高騰する恐れがあります。
なお、JPEXで非化石証書を入札できるタイミングは年4回と限られています。そのため入札時期に合わせて、余裕を持って対象となる小売事業者へ問い合わせ、使用量や購入量などを相談しておくとよいでしょう。
電力契約はそのままに、仲介事業者から環境価値のみを購入する方法もあります。この場合、購入量の判断は自らが算出して行わなければなりません。しかし、仲介事業者に手数料を支払うことで環境価値を得られます。環境価値のみを購入することを代理購入と呼びます。代理購入に当たり、電力契約を変更したりJEPXの会員登録をしたりする必要はありません。また、自社のペースに応じて少量から再生可能エネルギーに変更できるため、段階的な切り替えが可能です。
段階を踏んで100%の電気を実質的に再生可能エネルギーに切り替えられるため、総合的に見て他の方法よりデメリットが少ないです。
非化石証書は、非化石電源で発電された電力を供給することによる温室効果ガス削減の環境価値を示す証明です。
非化石証書には使用する非化石電源の種類に応じて3つの種類があり、水力や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーを電源として使用している電力の証書は「再エネ指定」に該当します。
非化石証書は電気事業者の間で売買されており、小売電気事業者は非化石証書の購入を通じて、再生可能エネルギー由来の電力普及と温室効果ガス削減に貢献している根拠を立証しています。
そうした取り組みが、より環境に優しい電力プランの提供、さらには地球環境保全へとつながっていくのです。
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