投稿日:2024/08/30
更新日:2024/08/30
でんきの豆知識
2024年4月から容量市場の実際の取引がスタートしましたが、現時点では、特に影響を受けていない方がほとんどではないでしょうか。
容量市場は電力業界においてメリットの多い取り組みですが、一方で、デメリットが全くないわけではありません。契約している電力会社によっては、電気料金が値上がりする可能性もあります。
本記事では容量市場について、その仕組みやメリット、デメリットを分かりやすく解説します。今後、需要家としてどのような影響を受ける可能性があるのか、しっかりと把握しておきましょう。
※本記事の内容は2024年8月時点の情報です
目次
容量市場は、将来必要とされる電力供給力(kW)を確保するための市場です。実際に発電された電力(kWh)ではなく、4年後に供給可能な容量をオークションで取引します。
オークションで落札された発電事業者は、4年後へ向けて供給力の維持・強化を行い、落札された容量を確保します。実際に4年後に供給した電力量に応じて、対価が支払われる仕組みです。
日本では2020年に容量市場が開設され、第一回のオークションが行われました。4年後に当たる今年・2024年4月から実際の電気の取引が始まっています。
容量市場開設の目的は、安定的な電力供給力の確保と、それによる需給バランスや電気料金の安定性の向上です。
日本はエネルギーの80%近くを火力発電に頼る火力発電大国ですが、火力発電所の数は年々減っています。その理由は大きく2つ。
一つは、政府が2050年のカーボンニュートラル実現へ向けて、2030年度時点での火力発電の比率を現在の76%程度から41%程度まで減少させる方針を掲げていること。もう一つは、2016年の電力小売全面自由化によって小売電気事業者同士の競争が激しくなり、その結果、大手電力会社が採算の取れない老朽化した火力発電所の休止・廃止を進めていることです。
火力発電の代わりとして挙げられるのが、主に原子力発電と再生可能エネルギーですが、残念ながら、減っていく火力発電所の分の電力供給力は十分に確保できていません。
原子力発電は2011年の東日本大震災をきっかけに停止を続けている発電所が多く、2010年度は日本の一次エネルギー供給構成の11.2%を占めていましたが、2022年度は2.6%にまで減少しています。
また再生可能エネルギー(水力を除く)は、2022年度は10.3%まで増加していますが、発電量が天候や時間帯に左右されるため、現状ではどうしても供給量が安定しません。電力の需給バランスを保つためには、需要量に応じて自由に供給量をコントロールできる火力発電がまだまだ必要不可欠なのです。
とはいえ、発電設備の不足や老朽化の問題は、もはや発電事業者だけでは解決できません。そこで、発電設備の新設やメンテナンスに必要な資金を電力市場全体から集められる容量市場が開設されたのです。
容量市場を主催しているのは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)です。
まずOCCTOが4年後の電力供給力と、気象や災害リスクを考慮して調達すべき電力容量を算定。4年後に供給が可能な電源を募集し、オークションにて、調達すべき電力容量を賄えるだけの容量を落札します。
先述した通り、オークションで落札された発電事業者は、4年後へ向けて発電設備の新設やメンテナンスを行い、落札された容量を確保します。
4年後に、発電事業者が必要な電力を供給し、OCCTOが供給量に応じた対価を支払って取引成立です。もしも、発電事業者が予定通りに供給ができなかった場合は、ペナルティが発生します。
オークションで決定した取引価格は、約定価格といいます。容量市場はシングルプライスオークションなので、エリアごとに単一の価格で取引が行われます。
容量市場のこれまでの約定価格は、以下の通りです。
エリアプライス(円/kW) | ||||
---|---|---|---|---|
エリア | 2024年度 | 2025年度 | 2026年度 | 2027年度 |
北海道 | 14,137 | 5,242※ | 8,749※ | 13,287 |
東北 | 14,137 | 3,495 | 5,833 | 9,044 |
東京 | 14,137 | 3,495 | 5,834 | 9,555 |
中部 | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,823 |
北陸 | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 |
関西 | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 |
中国 | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 |
四国 | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 |
九州 | 14,137 | 5,242※ | 8,748※ | 11,457※ |
※マルチプライスでの約定あり
第一回のオークションの約定価格は、14,137円/kWと非常に高値となり、電力業界に衝撃が走りました。第二回のオークションでは1万円以上の値下がりとなり、以降は第二回を底値に、やや値上がりの傾向となっています。
※参考:電力広域的運営推進機関.「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2024年度)」.https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2020/files/200914_mainauction_youryouyakujokekka_kouhyou_jitsujukyu2024.pdf ,(2024-08-29)
※参考:電力広域的運営推進機関.「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2025年度)」.https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2021/files/220119_mainauction_keiyakukekka_saikouhyou_jitsujukyu2025.pdf ,(2024-08-29)
※参考:電力広域的運営推進機関.「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2026年度)」.https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2022/files/230222_mainauction_youryouyakujokekka_saikouhyou_jitsujukyu2026.pdf ,(2024-08-29)
※参考:電力広域的運営推進機関.「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2027年度)」.https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2023/files/240124_mainauction_youryouyakujokekka_kouhyou_jitsujukyu2027.pdf ,(2024-08-29)
4年後に発電事業者が受け取る対価を容量確保契約金額といいます。この容量確保契約金額の原資となるのが容量拠出金です。
OCCTOの定款により、小売電気事業者・一般送配電事業者・配電事業者には、各エリアのH3需要に応じた容量拠出金の支払いが義務付けられています。H3需要とは、1カ月の毎日の最大電力(1時間平均)のうち、上位3日分を平均した需要のことです。
各事業者の負担金額は1kWh当たり数円程度の見込みですが、事業者によっては億単位の負担を強いられる可能性もあります。
容量市場は発電事業者のみならず、需要家にも大きなメリットがあります。
オークションで落札された発電事業者は、容量を確保するために発電設備の新設やメンテナンスを行うため、電力の供給量が増えていきます。電力供給力が上昇すれば電力の安定性が向上し、電力需給のひっ迫が起きにくくなるため、夏や冬の需要ピーク時でも、停電を気にせずに安心して過ごせるでしょう。
電気料金が高騰する要因の一つが電力需給のひっ迫です。需要量に対して供給量が少ないと電気の市場価格が高騰し、電気料金も値上がりしてしまいます。
発電設備の新設やメンテナンスによって電力供給力が上昇し、電力需給のひっ迫が起きにくくなれば、電気料金の高騰リスクも下がり、電気料金が安定しやすくなるのです。
メリットの多い容量市場ですが、一部の需要家にはデメリットもあります。
先述した通り、小売電気事業者は容量拠出金を支払う必要がありますが、自社で発電施設を保有している場合は、同時に容量確保契約金額を受け取ることもできるため、実際の負担はほとんどありません。
しかし、自社の発電施設を持たない小売電気事業者の場合は、容量拠出金の分だけ電力の調達費用が増えてしまいます。中には、容量拠出金を制度負担金として電気料金に転嫁するケースもあり、一部の新電力は、2024年4月から電気料金を値上げしています。これから電気料金を改定する新電力もあるかもしれませんので、電力会社からのお知らせが届いたら、内容をしっかり確認しましょう。
容量拠出金を電気料金へ転嫁せずに自社で飲み込んだ結果、利益が圧迫されて、事業撤退や倒産、廃業に追い込まれる新電力が出てくる可能性もあります。その電力会社と契約していた場合には、乗り換えを余儀なくされるでしょう。
電力供給力の強化につながる容量市場は、現在の日本にとって重要な取り組みです。発電設備の新設やメンテナンスが計画的に進めば、電力の安定性が向上し、電力不足による停電リスクや電気料金の高騰リスクも下がるでしょう。
一方で、容量拠出金によって電気料金が値上がりしたり、新電力が撤退したりする恐れもあるため、契約している電力会社がどのように対応するのかはしっかり確認しておいてください。
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