投稿日:2022/11/16
更新日:2024/08/30
でんきの豆知識
FITとFIPは、太陽光発電を含む再生可能エネルギーの買い取りに関する制度です。2012年7月にFIT制度がはじまり、2022年4月より新たにFIP制度が導入されました。
住宅用太陽光発電を設置している方は、買い取りに関する制度を知ることで、発電した電気を有効活用できるようになります。
この記事では、FITとFIPの違い、住宅用太陽光発電への影響の有無、FIP制度に移行するメリット・デメリットを解説します。これから太陽光発電を始めてみようか検討中の方もぜひ参考にしてください。
目次
FIPとは「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略称で、再生可能エネルギーの発電事業者に対して、売電価格に一定の補助額(プレミアム)を上乗せする制度です。再生可能エネルギーの導入に積極的な欧州などで早くから取り入れられている仕組みで、日本でも2022年4月より開始されました。
FIP制度の新設に伴い、出力1MW以上のメガソーラーはFIT制度からFIP制度に移行する必要が生じました。2024年8月の時点では、原則として出力250kW以上1MW未満の太陽光発電はどちらの制度を利用するか選択できます。
住宅用太陽光発電は原則出力10kW未満となっているため、FIP制度の対象外となります。現時点ではFIP制度の新設による住宅用太陽光発電への影響はありませんが、対象範囲は徐々に拡大していく予定です。
今後、住宅用太陽光発電がFIP制度の対象範囲に加わる可能性もあるため、現状のFIT制度との違いや種類を知っておくと良いでしょう。
参考:経済産業省資源エネルギー庁.「再生可能エネルギーFIT・FIP制度ガイドブック2024」.
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2024_fit_fip_guidebook.pdf ,(2024-08-13).
FITとは「フィードインタリフ(Feed-in Tariff)」の略称で、再生可能エネルギーを用いて発電された電気を一定期間固定価格で買い取る制度です。時期や時間帯にかかわらず安定した価格で売電でき、住宅用太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及に大きく貢献しました。
一方で、固定価格を維持するための再生可能エネルギー発電促進賦課金の国民負担額は年々膨らんでおり、2024年度の見込みでは総額4兆8,172億円に及んでいます。
対するFIP制度は、市場価格と連動した変動制を採用しており、時期や時間帯によって買取価格が変わります。FIP制度にも補助額はありますが、市場と連動するため国民負担の軽減が期待されています。FIP制度では電力需要が高いタイミングの買取価格が上昇するため、工夫次第で高い収益をあげることも可能です。
※参考:経済産業省.「再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2024年度以降の買取価格等と2024年度の賦課金単価を設定します」.
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240319003/20240319003.html ,(2024-08-13).
多くの魅力があるFIP制度ですが、実は、以下のような課題も残されています。
これらの課題を解決するためには、発電事業者が長期的な見込みを立てやすくなるような仕組みづくりが求められます。一つずつ見ていきましょう。
近年のエネルギー価格の高騰は、FIP制度の普及の妨げとなり得ます。
燃料価格の高騰がそのまま不利益となるわけではなく、FIP価格よりも市場価格とプレミアムの合計が高ければ、発電事業者にとってはプラスの状態です。ところが高騰した翌年が安価になるとプレミアム単価が下がるため、FIP価格の方が高くなった場合、発電事業者は不利益を被ってしまいます。場合によっては0円/kWhとなることもあるため、注意が必要です。
FIP制度のプレミアム単価は、「基準価格(FIP価格)」と「参照価格」の差額で求められます。基準価格とは、通常の再生可能エネルギー供給にかかる費用などに諸要件を加味して定められた金額のことです。また参照価格は、市場取引などで期待される収入金額を指します。市場価格が上昇した場合は参照価格も高くなり、計算の結果、プレミアム単価が下がる仕組みです。
国内でFIP制度がスタートした2022年は、世界規模でのエネルギー危機となったため、市場価格も大幅に上昇しました。そこから2024年にかけて徐々に安定してきてはいるものの、FIP制度を利用する発電事業者にとっては、低水準のプレミアム単価が続いている状況といえます。つまりエネルギー価格の高騰が続いたことにより、FIP制度を導入しても、直近ではその恩栄を受けられないケースが目立っているのです。
これにより「FIP制度を導入してもメリットが見込めないのでは」といったふうに考える発電事業者が多く、結果として普及の足止めにつながってしまっています。
参考:資源エネルギー庁.「FIP制度における基準価格とプレミアム」.
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fip_2020/fip_seido_gaiyou.pdf ,(2024-08-13).
2024年現在、新たな再生可能エネルギーの取引方法として「コーポレートPPA」が広がりつつあります。
コーポレートPPAとは、発電事業者と需要家が直接的に電力受給を行う相対取引のことです。太陽光発電を行う事業者とその顧客企業が、10〜20年ほどのスパンで契約を結ぶケースが多いです。市場を介さない取引のため、長期的、かつ、安定的に電力の売買が行える傾向にあります。
発電事業者にとってはFIT制度やFIP制度と並ぶ選択肢の一つに当たるので、コーポレートPPAが拡大しているということは、FIP制度が選ばれないケースが増えているということでもあります。
なおコーポレートPPAの契約形態にはいくつかのパターンがあり、主に以下の3つに分けられます。
参考:自然エネルギー財団.「コーポレートPPA日本の最新動向」.
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_JPCorporatePPA_2024.pdf ,(2024-08-13).
金融機関が事業者に対する融資の可否や金額を決定する際は、事業者が作成した収支計画の確実性に基づいて判断されるのが一般的です。ところがFIP制度には、発電事業者にとって確実な収支計画を立てにくいという特徴があります。そのため発電事業者が太陽光発電システムの導入を目的として金融機関から資金調達をしようとしても、収支計画が確実でないと判断され、融資を受けられないケースがあります。
FIP制度の収支計画が狂いやすい要因の1つには、一定の収益が期待できるFIT制度と比べると、FIP制度が複雑な仕組みとなっている点が挙げられます。FIP制度ではタイミングによって売電価格が変動するので、発電事業者が実際に長期的な収益性を保つには、制度の内容を熟知した上でそれをうまく活用できなければなりません。
海外で導入実績のあるFIPの3つの種類やそれぞれの概要、メリット・デメリット、導入実績のある国を紹介します。日本では、プレミアム「固定型」とプレミアム「変動型」の2つをベースとしたFIP制度を目指しています。
市場価格に応じた収入に加えて、固定されたプレミアム単価を付与する方法です。
固定型のメリットは、補助額が一定となるため、国民が支払う再生可能エネルギー発電促進賦課金の負担を軽くすることが期待できる点です。デメリットとしては、市場価格の影響をそのまま受けるため、事業者の売電収入予測が立てづらいことが挙げられます。
再生可能エネルギー先進国として、さまざまな取り組みを実施してきたスペインで導入された実績がある方法です。
市場価格とプレミアム単価の合計に、上限・下限を設定した方法です。メリットは、市場価格が大幅に下落した場合でも、下限が決められているため再生可能エネルギーの発電事業者への影響を軽減できる点です。
一方、市場単価が大幅に上昇した場合でも、上限を超えたプレミアム単価が付与されない点はデメリットとなります。また、上限・下限の適正値を設定するのが難しいという課題もあります。
導入実績のある国としてはスペイン、デンマークが挙げられます。
市場価格に応じてプレミアム単価が変動する方法です。メリットは市場価格が大きく変動しても安定した収益が見込める点と、収益予測が立てやすいので新規参入事業者を増やしやすい点です。デメリットとしては、市場価格が下落した際に再生可能エネルギー発電促進賦課金で差額を補う必要があるため、国民の負担が増大する可能性が挙げられます。
世界的にはイタリア、 ドイツ、オランダ、スイスなど多くの国が導入しています。
ここからは、FIP制度に移行するメリットを事業者・消費者双方の視点から解説します。FITが再生可能エネルギーの普及を促す制度であるのに対し、FIPはさらに一歩踏み込んで再生可能エネルギーの自立を後押しする制度となっています。
FIP制度に移行した事業者は、現行のFIT制度と比べると市場価格に応じた戦略が立てやすくなります。例えば、FITの固定買取価格は安定しているものの、年々下落傾向です。一方、FIPの買取価格は市場価格に連動するため、高いときに売電して、安いときはメンテナンスや停止するなど運用を工夫することで収益を狙いやすくなります。
変動する価格にあわせて運用するためには、蓄電システムの活用もポイントです。市場状況を踏まえた設備導入を行い、電力需要の高いタイミングで売電することで、利益を確保しやすくなります。
現時点でのFIP制度は、出力50kW以上の太陽光発電設備を有する事業者を対象とした仕組みなので、一般消費者に直接的なメリットはありません。ただし、FIP制度で電力市場が活性化していけば、消費者はより安い電力会社を選べるようになる可能性はあります。
FIP制度は、プレミアム単価という補助を受けながら、収益化を目指せる仕組みです。新規参入の再生可能エネルギー発電事業者が増えることで、市場競争が活発となり、電力価格が下がることが期待されています。
FIP制度では市場と連動して収入が変わるため、長期的な見込みが立てにくくなります。戦略次第で収益を狙いやすくなる一方で、見通しが外れると売電収入の低下につながる可能性もあります。
また、FIT制度では10kW以上の太陽光発電の場合、20年間価格が固定されますが、日本で導入されたFIP制度は1カ月ごとに変動します。FIP制度で安定した利益を確保するためには、市場の動向を正確に把握して、需要と共有のバランスを予測しながら売電していくことが大切です。
2050年までのカーボンニュートラル実現のためには、再生可能エネルギーの主力電源化が必要不可欠です。FIT制度により太陽光発電をはじめとする設備の普及は進み、徐々に電源としての自立に向けて転換する時期に移行しつつあります。
再生可能エネルギーのさらなる発展を目指して新設されたのが、FIP制度です。FIP制度が開始されたことにより、事業者も収益化に向けた工夫がしやすくなり、電力市場との統合・活性化が進んでいくと予想されます。最終的には、プレミアム単価なしで産業として完全な自立に向かうことが期待されています。
FIPとは再生可能エネルギーの発電事業者を対象とした、新しい買い取り制度です。固定価格のFIT制度とは異なり、市場価格に応じた変動制を採用していて、欧州を中心に世界的に導入が進んでいる仕組みです。
現時点では住宅用太陽光発電への影響はありませんが、日本の再生可能エネルギーは大きな転換期に突入しています。今後も条件の変更や制度の見直しが行われる可能性は高いため、制度への理解を深め、しっかりと備えておくことが重要です。
関連記事
人気の検索キーワード